「お前…また散らかしやがって…」
腕を組んだアカンサスがテオドールを見下ろす。正座で縮こまるテオドールに、いつもの凛とした気迫は感じられない。
「使った物は元あった場所に片付ける!!基本だろうが!!」
「理屈は理解出来るでござる…しかし予め出しておいた方が効率的故…」
「邪魔邪魔邪魔邪魔ァーーーー!!」
あのアカンサスが正論を振り翳し、尚且つ主導権を握っている。珍しい光景だ。性根が悪魔故テオドールを責める事に愉悦を感じているのかと思いきや、彼の表情に笑みは見当たらない。どうやら本気で怒っているらしい。
テオドールは、片付けが苦手なのである。
盲目になる以前からの悪癖だ。
「早く仕舞え」
「そんな…せっかくベストポジションにしたのに…」
「仕舞え」
「考え直して欲しいでござる…」
テオドールはふるふると首を横に振る。
他人から見ると混沌でも、当の本人からすれば最善なのだろう。散らかしているという自覚はあれど。
「此処はお前だけの部屋じゃない。このままの状態を保ちたいと言うなら、出てって貰うからな」
「それは無理でござる」
「じゃあはよ片せや」
「それも無理でござる」
実際の所、テオドールが掃除に取り掛かると逆に散らかる。既にアカンサスは経験済みだった。
片手でわしわしと頭を掻きながら、心底面倒臭そうにアカンサスは溜息を吐く。
「…もういい、我がやる。文句言うなよ。言ったら殺す」
「殺される前に殺すでござる。兄者殿を置いて死ぬ訳にはいかないでござる」
「減らず口エクソシストが…」
使命感の塊ことテオドールに呆れつつ、アカンサスは掃除に取り掛かった。自分の命を狙っている憎い相手を何故世話してやらなければいけないのかという、至極真っ当な考えを抱きながら。
…その時。
「テオさ〜ん。兄者〜」
合鍵を手にしたミラが、のほほんとした調子で訪問した。
「ミラたん!!」
「一緒にアニメ見……うわ部屋どうしたのだこれ」
「こいつが!!こいつが悪いの!!やばないこの散らかし具合!!あたおかだよね!?」
「ほえ〜テオさんにも苦手な事ってあるんだなぁ」
きっとドン引きして軽蔑してくれると期待していたアカンサスだが、ミラの反応は友好的だ。そう。一見完璧に見える人間の欠点は、時に親しみを生むのである。
「ミラたん!?なんで!?罵倒して!?」
「えー。ミラもお掃除ヒイラギにやって貰ってるし、なんも言える事ねーのだ。資格無いのだ。責められんのだ」
「じゃあじゃあじゃあさ。ミラたんさ。駄犬とお兄ちゃんトレードしない?お兄ちゃんミラたんの為なら炊事洗濯掃除何でもやるしお望みならメイド服も喜んで着るので是非ご検討ください」
「お断りします」
「はやぁい」
当然の結果である。
2メートル越えの大男。挙句、紛れもなく血の繋がった兄。そんな相手がメイド服で自分の世話を焼いてくるのは、ミラにとってホラーとしか言いようがない。
「とりまお取り込み中みたいだし、出直すのだ」
「待って!!!ミラたん!!!」
「またなー」
あっさりぱたりと扉が閉まる。アカンサスは膝を折って項垂れた。
「汚部屋製造機のせいで…貴重なミラたんとの時間が…ああぁ…」
ぽたりぽたりと畳に雫が降り注ぐ。
「兄者殿」
「んだテメェ」
「掃除するならするで早くやって欲しいでござる」
「しばき倒すぞ」
「アニメ見たいでござる」
「(いつか絶対隙見て殺す)」
こいつ含めて掃除したいと切実に思いながら、アカンサスは震える手で収納ボックスを取るのだった。