入店早々、先輩が腹から声を出す。
「相変わらずうるっせーですわねぇ!!!!!」
「うるさいのはお前定期」
「なんて事言うんですか天霧サン!!!ワタクシは勇気凛々元気溌剌興味津々意気揚々なだけですわよ!!!」
子どもの頃に聞いたなそのフレーズ…確かアニメのOP…まあいいか…。
「ナギ、お耳痛くありませんか?」
「へーき」
けろっと答えた神々廻が大きな欠伸をする。それから目尻に浮かんだ涙を拭いもせずに続けた。
「何からするん」
「そーですわねー!お太鼓ドドンガドンしたいですし、お車でおレースもしたいですし、おゾンビを駆逐するのも良いですし…おUFOキャッチャーでおティッシュの補充も欠かせません!!何より、おプリは絶対に外せませんわー!!」
「えーまた…?男三人で何が楽しくて撮るんだよ…汚プリになるでしょ…」
「レディとおイケメン二人の間違いですわ!!訂正してくださいまし!!」
「はいはいすみませんでしたー」
先輩ゲーセン来る度にプリクラ撮りたがるんだよな…思い出の1ページですわだのなんだの言って。撮るまで帰れないから撮るしかないけど、僕は写真が好きじゃないので毎度後ろ向いたり顔だけ見切れさせたりして工夫を凝らしている。先輩はこれじゃあ心霊写真だのちゃんと写れだのぶーたれるけど、金出してんの僕だから黙らせてる。
とりあえず最初は太鼓叩く事になりました。
…メジャーなゲームだから当たり前の様に存在してるけど、曲に合わせて太鼓叩かせるって発想中々に斬新だよなぁ。大抵の一般人、バチ握る機会がまずないじゃん。それをチョイスする辺りかなり渋い。
でも妙に理にかなってるというか、ハードル低いんだよなこの楽器。音階無いし楽譜読まないといけないとかもないし、子どもでも感覚で叩けるからリズムゲーとの相性が良い気がする。根強く生き残る訳だ。
そんな事を考えていると、子ども用の台に乗っている先輩が話し掛けてきた。
「天霧サン知ってます!?ナギが教えてくれたんですが、むずかしいより上のモードがあるらしいんです!」
「あー、おにね」
「それそれそれです!話が早いですわー!やってみませんか!?」
「腕もげるから却下。そういうのってガチ勢向けでしょ」
絶対備え付けのバチでやる事じゃない。マイバチ持ってるならまだしも、重量ある棒でやるのは無謀だ。変態か無知かマゾの三択。ゲームが筋トレになってしまう。
「そもそも先輩かんたんすらクリア出来た事ないじゃん」
「いやぁんそれ程でもぉ〜!!」
「褒めてねえよ」
二人同時に叩かないといけない手繋ぎノーツで先輩のだけ流される光景を何度見せられた事か。
「とにかくやってみましょ!レッツ!トライアンドエラー!」
先輩はそう言って太鼓を叩きまくり、出現させたおにを選択した。僕は…ふつうで。
「ちょおーーーーーい!?!?!?天霧サン!?!?天霧サンなんで!?!?なんでどしてなんで!?!?」
「やかましい。制限時間あるんだからさっさと曲選ぶよ」
「そんなぁーーーー!!!」
結果。
ノーツの密度のおかげでリズム感皆無のでたらめ殴打でも数打ちゃ当たり、先輩は初めてクリア出来ましたとさ。ノルマクリア成功〜言われてめっちゃ喜んでました。良かったね。
僕らが太鼓叩いてる間、神々廻はUFOキャッチャーで流行りのアニメのフィギュアを取っていた。遠目から見ても既に紙袋に5箱くらい入っているのが確認出来る。動画でコツ学んだとかでやたら上手いんだよな。
…あ。こっち気付いた。ピースされた。
神々廻がUFOキャッチャーやってんのは、コレクション目的じゃない。フリマアプリで売って小遣い稼ぎする為だ。
UFOキャッチャーって苦手な人いるし、安価で取れる腕があるなら売れば得出来るし、これも一つのWin-Winなのかもしれない。
ちゃっかりリサーチしてるっぽいから在庫抱えるとかも今の所ない。ので、特に文句はない。一時的に車内圧迫する以外は。
「程々にしとけよ」
「りょ。もーちょいだけやらして」
「ナギー!ワタクシ初めてお太鼓クリア出来ました!しかもおにで!おにで!これはもうお達人を名乗っても良いのでは!?」
ハッスル中の先輩によるダダ絡みに動じず、神々廻は片手でアームを操作する。そして視線は前方固定のまま、空いた片手で先輩の頭を撫でた。
「良かったな」
「えへ…えへえへ…」
うわちょろ。
「これを機にチビ達人に改名したら?」
チビは譲らないんだ…。
「マイハニーにしましょう!!マイワイフでも可!!」
「はは。バカップルじゃあるまいし」
十分バカップルみたいなもんだよお前らは。
神々廻の小遣い稼ぎの間、適当にブラブラしてたら…先輩がファミリーパックのお菓子の台に吸い込まれて行った。
「うっひゃー!美味しそうですわー!」
「はいはい、後で神々廻に取って貰いな。先輩がやったら金ドブだから」
「んもう!照れますわねぇ〜!」
「褒めてねえよ」
食い意地張りまくってる先輩の首根っこ掴んで離れようと悶着してたら、両手に紙袋持った神々廻が歩いて来た。ちょっと見ない内に袋増えてんの怖。
「大漁大漁」
「丁度良い所に。これ取ってやって」
「ん。お任せあれ」
はい。って事でお菓子ゲットしました。
先輩が満面の笑みでほくほくしながら抱えてます。見た目は子ども、頭脳は年増。
ストックかなり増えたけど、果たしていつまで保つやら。あればあるだけ食おうとするからなこいつら。今日という一日を全力で生きようとする習性故に後先考えないっていうか、貯蓄という概念が無いというか。やれやれ。
それと、ティッシュも僕の両手塞がるくらいの量をしれっと確保済みです。鼻がセレブなやつ。昔は適当な安いやつ使ってたのに、おかげさまでこれじゃないと満足出来ない鼻にされてしまった。おのれ神々廻。
にしても最近のUFOキャッチャーって生活用品参加してて便利だよなぁ…ティッシュとかトイペとか…。上手くいけば普通に買うより安いし、やればやるだけお得。ナイス神々廻。
さて。全員手荷物増えたから、一旦車に置いて来ました。
戻って早々レースゲームやってます。
「おドリフト決めますわーーー!!!!!」
こいつが運転する車絶対乗りたくねえ。
「落ちましたわーーー!!!!!」
こいつが運転したら命いくつあっても足りねえ。
勝手に自滅して奈落の底に吸い込まれてる先輩を横目に、適当にアイテム拾って適当に消費してのんびり走ってたら…見てはいけないものを見てしまった。
「ねえ誰逆走してたの」
「オレ」
「何やってんの?????????」
あまりにも自然過ぎて対向車線あるのかと思ったじゃねえかよ。
「普段交通ルール厳守で安全運転してるじゃん、オレって」
「当たり前だろ」
「ゲームでくらいハメ外したくなったっていうか」
現実で真面目にやってる分ゲームで発散するタイプか…いや、こいつそんな真面目に生きてねえな…未だに無免許のガチ犯罪者だし…先輩が犯罪歴天井ブチ抜き過ぎてて霞んでるけど普通にヤバい。つるんでる僕もヤバい。あははは。
「看板持ったカメにUターンしろってずっと言われててウケる」
言う事聞いてやれよ可哀想に。
続くゾンビシューティングゲームでは。
「お覚悟〜〜〜〜!!!」
先輩が二丁拳銃で暴れております。つまりプレイヤー二人分の金払ってます。アホです。
「ナギ!!今ですわ!!」
「はい、ドーン」
「っしゃあーーーーー!!!討ち取ったりぃーーーーー!!!」
神々廻は隣でグレネード係やってます。先輩トリガーから指離せないから、グレネード使いたい時に自力でボタン押せないんだよな。アホです。
僕はというと、暖簾ペラっと捲って見物中。
「おバタフライの様に舞い、おビーの様に刺す!!速やかかつ華麗な殲滅で絶対生還してみせますわーーーーー!!」
こういうゲームって初見殺し要素とかでコンティニュー送りされてじわじわ金削られるから、僕らは死んだら終わりルールでやってんだよね。節約節約。命の残機は金で買えません。そのせいで先輩が余計に燃えてるんだけども。
てかあのやけに凝った見た目のコントローラー、地味に重量ある筈なんだけどなー。先行き怪しい。
…と思ってたら案の定、最初のステージクリア後。
「やっべーですわ!!ワタクシのおアームがプルップル震えてギブアップを訴えてますわー!!ナギ!!天霧サン!!おチェンジ希望!!おヘルプおヘルプ!!」
ですよねー。
クソデカ応援浴びながら、神々廻が上手いのもあり無事クリア出来ました。まあ僕は初見殺しの奇襲のせいで途中で死にましたけどね。
クリアした証のプレイヤーネーム入力で、神々廻は適当にAを連打する。こいつRPGだと主人公の名前『あああああ』にしてそう。
「仇取ったよユウくん」
「どうもありがとうございますAAAAAAさん」
「誰それー」
「お前だよ」
「さあ!さあさあさあ!皆サンお待ちかねの……おプリタイムですわー!!!」
「楽しみにしてるのお前だけ定期」
「そんな事ありません有馬温泉!!ナギも楽しみですよねー?」
「テンションアゲアゲー。あーしバチバチに盛りたーい」
「黙れ神々廻ナギ子」
「どしたのユウ子〜カルシウム足りてないんぢゃね?」
「しばくぞ」
あああああ…最悪だ…最悪だ…最悪だ…クソクソクソクソ…キングオブクソ…!!!ナギ子が肩と顎ホールドしやがったせいで強制的に顔写った…あああああああああーーーー!!!!!
「キャー!ワタクシ達最高におキュートですわー!おめめパッチリ!お肌トゥヤトゥヤ!お唇トゥルントゥルン!」
いっそ殺してくれ。
プリクラを持ってくるくる回ってる先輩が視界の端でチラつく中、大戦犯がぬっと現れた。
「天霧」
「あ?どのツラ下げて来やがったテメー」
「お腹空いた」
「謝罪を!!!!!しろよ!!!!!」
きょとんとすな!!!!!
「はい!!ワタクシもお腹空きました!!」
「ファミレス行こファミレス」
「おファミレス!?大賛成ですわ!!」
「はい決定ー善は急げー」
「勝手に決めるな話題を変えるな連行するな」
「ユウくん腹減ってないん?」
「減ってるに決まってんだろ」
「じゃあ良いじゃん」
「飯の前に一発殴らせろ」
「やだDV〜」
ファミレスに向かう道中、先輩が鼻歌混じりに今日撮った写真をルームミラーに貼り付けた。ズッ友さんとのプリクラの隣に。
「やっとこさ念願が叶いましたわ!ありがとうございます、天霧サン!」
「大袈裟な…」
「大袈裟じゃありませんわよ〜!ワタクシとっても嬉しいです!」
「ああ、そう…」
ハンドルを握る神々廻が口を開く。
「楽しかったな」
「はい!全部楽しかったです!」
「天霧は?」
「は?そんなの…」
………。
「言わせようとしても無駄ですからー」
「素直じゃないな〜ユウくんは」
「お可愛らしいですこと!」
「車揺らしたろかコラ」
「照れ隠しだー」
「楽しくない訳ねえだろコラ」
「ツンデレだー」
本気で不快だったらとっくに降りてるっつーの。一抜けしてるっつーの。
「おほほほほ!また遊びましょう!おプリも撮りましょう!」
「はいはい気が向いたらね」
「やったー!!!」
背もたれに身を預け、窓の外を流れる夜景を見ながらぽつりと思う。
…今日は、何食べようかな。