Selection/SS-1

「カッラオケ〜!カッラオケ〜!」

「カラオケですの〜!カラオケですの〜!」

手を繋いでスキップしている梅乃とエオリアちゃんが微笑ましくて、頬が自然とゆるむ。
指定された部屋まで一直線に向かう背中を追っていると、隣を歩く破竹が言った。

「飲み物忘れてんぞ。女子」

「あーっ!?危ない危ない!ナイスはちくん!」

「はーい。ドリンクバーあちらにこざいまーす」

「うぃい〜!!行こうエオリアちゅゎん!!」

「はいですの〜!」

今日は梅乃が遊びに来てくれたんだけど、開口一番に『カラオケ行こぉ!!』って言われたんだ。
そしたらエオリアちゃんが賛成して。破竹は、二人だけだと防犯面的に心配だから付いていくって言って。僕もそれに異論は無かったから、こうして四人で遊びに来ている。

「ときわん見て見てぇ」

コップを手にした梅乃がにまっとしながら近づいて来た。

「これ何だと思う〜?」

「え…」

何だろう…?不思議な色の飲み物だ。思い当たる節が無い。
素直に降参すると、梅乃はドヤ顔を浮かべて言った。

「正解はぁ〜…ドリンクバーのジュース全部ちょびっとずつ混ぜたやつでしたぁ!!」

成程分からない訳だなぁと思っていたら、破竹が梅乃の頭をチョップした。

「食いもんで遊ぶな」

「痛ぁー!?飲んでみたら美味しいかもでしょぉ!?」

「責任持って全部飲めよ」

「ほぉら、はちくぅ〜ん!あーんっ!」

「いらん」

「本日二度目のチョップぅ!?」

正直、ちょっと気になるかも。全部混ぜるって自分では浮かばない発想だったし…どんな味なんだろう。

「梅乃。あとで一口貰っていい?」

「おっ!ときわんノリ良いねぇ!一口と言わずぐいぐいーっといっちゃってぇ!」

「兄貴に処理させようとすんな」

「どひ〜!?連打しないでよぉ〜!?」

やっぱり梅乃が居ると、賑やかで楽しいや。

……あれ?エオリアちゃんがソフトクリームの機械の前で震えてる。

「はわわわ…」

「どうしたの?」

「と、ときわお兄さま…」

エオリアちゃんが振り返る。彼女の背後には、小皿の容量を明らかに超えたソフトクリームが凄まじい迫力で聳え立っていた。

「止めるタイミングを見失ってしまって…こんな事に…っ」

エオリアちゃんは青ざめてるけど、僕は感心していた。だって凄い高さなのにバランス崩れてないから。器用なんだなぁ。

「上手に作れたね」

「えっ!そ、そうですか…っ?えへへ…!」

照れ臭そうに微笑むエオリアちゃんの頭を、よしよしと撫でる。
エオリアちゃんは小さいお母さんみたいにしっかりしてるけど、たまにこういう時があるんだ。

「食べ過ぎて腹壊すなよ。エオリア」

お冷を持った破竹は、呆れと愛おしさが混じった様な…優しい表情をしていた。

「美味しいから大丈夫ですのっ!」

「何だその謎理屈」

「はちくんさまも、一緒に食べませんか?」

「…食い切れねえってんなら、手伝ってやらん事もないけど」

「ありがとうございますっ!」

ふふ。今日も仲良しだなぁ。

破竹と並んでそーっとそーっと部屋までソフトクリームを運んで行くエオリアちゃんの背中を見守っていたら、目を輝かせた梅乃が言った。

「いいなぁソフトクリームぅ!あたしも作るぅ!」

そう言ってドリンク用のコップを手に取った梅乃は、メロンソーダを注いで…ソフトクリームをその上に乗せた。

「じゃじゃーん!クリームソーダの完成でぇす!」

おお…流石梅乃。さっきのジュース全部混ぜた飲み物といい、ドリンクバーの楽しみ方を熟知してる。発想が柔軟だなぁ。

「ときわんは何飲むのぉ?」

「えっ」

…あ。

自分の飲み物用意するの、すっかり忘れてた。



ポテト片手に電子目次本を見ている梅乃が楽しそうに跳ねている隣で、僕は紅茶を口にする。
…うん、美味しい。
とりあえずストレートティーにしたけど、後で他のも飲んでみよう。ラインナップ豊富だから、選ぶのが楽しいや。

「よぉーっし!曲決定〜!最初は皆で歌お〜!」

梅乃が立ち上がると同時に、コマーシャルを流していた液晶画面が暗転する。
皆でって事は、全員が知ってる曲なんだろうけど…何入れたんだろう。

「ときわん、はちくんとこれ使ってぇ!エオリアちゃんはあたしとマイク使おうねぇ!」

「はいっ!」

梅乃とエオリアちゃんが寄り添う隣で、2本ある内の一本を手渡された僕は、破竹と目配せする。すると破竹は、僕の肩に触れるか触れないか位の距離まで近付いてくれた。

画面に表示された曲名は…中学校の合唱コンクールの課題曲。
確かに、これならエオリアちゃんも知っている。家で梅乃が練習してたから。梅乃はソプラノ担当なのに、友達の練習に付き合ってたらアルトのパートも自然と覚えたらしくて…エオリアちゃんと二人で楽しそうに歌っていた。

…皆で実家に居た頃が懐かしい。だけど住む場所が変わっても、こうして当たり前の様に集まっている。それが嬉しかった。
兄妹だからって一緒に居ないといけない訳じゃない。だけど逆に、一緒に居たらいけない訳でもない。
僕達は望んでこうしているんだと思うと…温かい気持ちになった。


「久々だったけど、案外覚えてるもんだな」

「ね。いっぱい練習したからかも」

梅乃はアルト、エオリアちゃんはソプラノ、破竹はバス、僕はテノールを担当したんだけど…四人で歌うのは初めてだったから、新鮮で楽しかったな。

余韻に浸っていると、梅乃に笑顔でコップを差し出された。

「ときわ〜ん!さっき言ってたこれ、一口飲んでぇ〜!」

「あ、うん。頂くね」

「やめとけ兄貴」

「あはは…心配しなくても大丈夫だよ、破竹」

確かに色は凄いけど、美味しいかもしれないし。

「頂きます」

…。

………。

……………。


うわっ…まずっ…。


「…こ、個性的な味」

形容し難い。何だろうこれ。何なんだろうこれ。え…本当に…何かな…良い表現が出て来ない…。

「わたくしも挑戦してみますっ!」

えっ。

「おお〜!エオリアちゃん、チャレンジャーだねぇ!」

「エオリアちゃん…や、やめておいた方が」

「大丈夫ですっ!任せてくださいっ!」

あああ…。

梅乃が僕の手からコップをひょいっと取ってエオリアちゃんに渡すと、意気揚々とエオリアちゃんはジュース(と呼ぶべきか分からない液体)を口に含んだ。


その結果…彼女は、フリーズした。


梅干しを食べたみたいに口を窄めて、瞬きすらせずに固まってしまった。明らかに思考停止している。背景に宇宙が見える気がする。南無…。

「エオリア。口開けろ」

破竹がソフトクリームを食べさせると…無事、エオリアちゃんは再起動した。

「お、おいしいです…っ…おいしいですの…っ…!」

感動で震えちゃってる…。
ソフトクリーム拝み出しそうだなと思ってたら、案の定エオリアちゃんはそっと合掌した。あれを飲んだ後なら落差が天と地だから無理もない。

「あたしも飲もーっとぉ!」

なんと梅乃はあの大惨事を見た後にも関わらず、腰に手を当てて残りを一気飲みした。

「ぷはぁーっ!!まっっっっっっずいねぇ!!」

一口でギブアップ級の破壊兵器をゴクゴクと…信じられない。

「凄いね梅乃…」

「んひひ!残したらはちくんに怒られちゃうからねぇ!」

「二度と作んなよ」

「改良の余地ありぃ!」

余地どころじゃないんだよな。

けらけらと笑いながらクリームソーダで口直しする梅乃に、僕は尊敬と畏怖の念を抱いたのだった。



それからは、気を取り直してカラオケを楽しんだ。
マラカスとタンバリンを同時に鳴らして伴奏を掻き消した梅乃が破竹に叱られたり…エオリアちゃんの歌声で全員すっと夢の中へ誘われたり…色々あった。

僕はあまり音楽を聴く習慣がなくて、テレビで流れてる流行りの曲のサビくらいしか知らなかったから、サビだけのカラオケが配信されてて助かった。
次回に備えて、レパートリー増やしておきたいな。



夕焼けに染まる街の中、カラオケを後にした僕らはスーパーへ向かう。
梅乃が泊まっていくからか、エオリアちゃんは普段より一層夕飯作りに張り切っている様子だった。

エオリアちゃんと手を繋いでいる梅乃が、足を弾ませながら言う。

「アニソンデュエット楽しかったねぇ、エオリアちゃん!」

「とっても楽しかったですのっ!」

「エオリアちゃんが作るご飯楽しみだよぉ!」

「梅乃お姉さまの為に、腕によりをかけますのっ!何でもリクエストしてくださいっ!」

「あーん!!ありがとぉエオリアちゅゎんぬ〜!!んぎゃわいぃよぉお〜!!我が妹は永遠に天使だよぉ〜!!フォーエバーエンジェル!!エターナルラブぅ!!」

「うわ、不審者居るわ。他人のフリしようぜ兄貴」

「こらこら」

破竹の言う通り、エオリアちゃんは彼女が望んだ人以外には見えないから、道行く人からしたら梅乃は一人なのにやたらテンションが上がっている子になってしまうけども。僕と破竹が少し後ろを歩いてるから…きっと大丈夫。うん。多分。

「えーっとねぇ!あたし、ハンバーグとぉ〜唐揚げとぉ〜トンカツとぉ〜!」

「頑張りますのー!頑張りますのー!」

「まっ茶色じゃねえかよ」

「野菜もちゃんと食べようね」

「野菜はいらなぁい!!」

「だーめ。漫画家さんになるんでしょ?ちゃんと健康でいないと」

「そ、そ、そうだけどぉ〜!」

ふふ。梅乃の付き添いする日が楽しみだな。どうすれば野菜食べてくれるか、試行錯誤しないと。
そういえばお母さん、梅乃の分だけ細かく野菜刻んでたっけ。気付かずに食べる梅乃を見て満足げにしていた記憶がある。
細かく切る練習しておかないとなぁ。


高校卒業まで、あと少し。
だけど僕らの人生は…まだまだこれからだ。