「ねーねー、めがみさま」
沈黙を続けていたレンが、不意に口を開いた。
「どしたの」
続きを促すもすぐに返事は来ない。もじもじしながらボクをちらちら見てくる。レンにしては珍しい反応だ。
「ん〜っとぉ…え〜っとぉ…」
「はよ言え」
気になるやろがい。
煮え切らない態度のレンの頬を指で連打しながら、ボクは言う。
「心配無用だって。ボクの寛大さ知ってるだろ?信用しろし」
「それを言われちゃぁ口を割るしかないのです。ぱかーんと白状するのです」
「うむ、よろしい」
レンは照れ臭そうに口をもにゅもにゅ動かした後、すっと真剣そうな表情になる。
「…めがみさまは、どうして自分の事を“ボク”って言うんですか?」
予想もしてなかった問い。つい目をぱちくりしてしまう。だけどすぐに胸を張って答えた。
「面白い事を聞くねぇ。決まってるだろう?一番似合ってるからさ」
するりと言葉は音になる。考えるまでもない事だったからだ。ボクがボクをボクと表する理由なんて、これが相応しいと自分自身感じたから以外の何でもない。
「ぼくと一緒なのです!!」
うお…めっちゃ嬉しそう。いつもキラキラしてる目が更に輝いている。ビーム出せるんじゃないかってくらいに。
「自分に似合うから…そうですよね!自分らしく生きる為なのです!」
「…もしかしなくても、まーた昔の事でモヤってた?」
レンはたまにフリーズする時がある。過去の経験やトラウマがふとした瞬間に頭を過ぎるせいで。
「ん〜…さっさと割り切りたいんですけどね!気持ちに反してと言いますか…難しいものなのです!」
13年程度の人生なんて、ボクからしてみれば一瞬だ。取るに足らない時間としか言いようがない。けど当事者のレンからすればそうもいかないのは、理解している…つもりだ。何てったってボクは完璧な女神でありマブダチだからね。
レン曰く、生前はクソみたいな人生だったという。つまり…こいつはそんな自分の人生を否定せず認めて、目を逸らさず受け止めている訳だ。
過去を振り返る事は、レンにとって古傷を抉るようなものだろう。そう思うと共に、彼女にとってその行為は、決して無駄ではないのであろう事も察せられた。いつかそれらを乗り越える為の、一種の努力なのだろうと。
であれば、ボクがするべき事は。
「ま、大丈夫だよ。レンの人生まだまだこれからだし。ボクと過ごす日々が、これまでの時間を凌駕するのは決定事項なんだから」
「うんうん!死んでからが本番なのです!」
なんか語弊が生じる気がするけど、レンの場合間違いじゃないから別に良いか。
「…ねえねえ、めがみさま。これからもぼくの事、幸せにしてくれますか?」
「ったりめーだろぉ。その代わり、レンもボクの事絶対幸せにしろよな」
「誓います!!!命懸けます!!!」
もう命ねえだろーが。ばーかばーか。ふふ。
「…いやはやぁ。昔シスターに、女の子なんだから私って言いましょうねって言われたのをふと思い出したのです。将来困るからって」
「困るかどうかは自分で決めるっつー話だよな」
「そーなのです!!余計なお世話なのです!!」
「女の子が私って言わなきゃいけない法律なんてあるんですかぁ〜?常識って誰が決めたんですかぁ〜?」
「そーだそーだ!!」
「つーかぁ?世界作ったボクこそが真理なのでぇ?そんなくだらない押し付けは無効にしまぁ〜す!」
「ひゃっほー!!めがみさま最高なのですー!!ひゅーひゅー!!」
あー気持ちええー。
存分にやんややんやした後、レンはこう言った。
「ぼくね、とっても嬉しかったのですよ。めがみさまがボクって言ってるのが。お揃いだ!って思ったのです!」
「気が合うな」
「相性ばっちしなのです!」
…レンは強い。
だって他人にやめろと言われても、“ぼく”をやめなかったんだから。自分を手放さなかったんだから。
自分らしく生きる事は、自分を愛する事だ。
他人の顔色を窺って自分を殺す事程、苦しくて無様で報われないものはない。
レンの貪欲に幸せを掴みに行く姿勢が、他人を気にせず自分を貫く信念が、ボクは好きだった。隣に置く存在として相応しいからね。
「ぼく、これからもぼくって言うのですよ!ありがとめがみさま!」
「なんもしとらんが」
「してますよっ!も〜!」
似た者同士のボク達は、二人でけらけら笑い合う。
さあ…今日は、何をして遊ぼうか。